1、入居の際の損をしないマニュアル(6)
賃貸の部屋を契約する時には、借り主と貸し主の間で契約書を交わすことが伴います。
不動産業者の仲介で契約をする場合、その業者から契約書についての説明と重要事項の説明がありますが、普通は契約書に書いてある事項のほとんどは一般的な内容で、契約期間、賃料の額、注意事項などで、物件ごとに大きく違う事はあまりないのですが、原状回復の事項については貸し主によって大きく違ってくる場合があります。
通常は貸し主が負担するべき原状回復費を、借り主が負担することとしている条項や特約がある場合には、貸し主と借り主の負担のラインをはっきりさせた上で契約を結ぶようにしましょう。
原状回復費23万円弱の請求が、判決により27,000円のみ借り主負担とされた事例(ブログ掲載記事)
■クロスの貼り替え費用は借り主負担か?貸し主負担か?
借り主のYさんは、平成2年3月に賃料48,000円/月のアパートを預け入れ敷金0円で契約し、4年後の平成6年4月に解約しました。
その際、建物の保守管理を貸し主から委託されていたXは、借り主の退去後に次の修理を行ない、その費用22万8,200円が掛かったとのことで、借り主に対して返還請求の訴訟を起こしました。
契約書には、借り主は畳表の取替えを負担する旨、また借り主の責任で汚損した場合は、借り主は直ちに原状に回復しなければならない旨規定されていました。
1、和室クロス貼り替え 46,400円
2、洋室クロス貼り替え 56,000円
3、玄関台所クロス貼り替え 68,800円
4、畳表取替え 27,000円
5、諸費用 30,000円
合 計 228,200円
これに対して裁判所は、
1、契約条項により、畳表取替えは借り主Yさんの負担と認められる。
2、壁の汚損は、借り主の責任というよりも、湿気、日照、通風の有無、年月の経過によるものと認められ、壁の貼り替え費用は貸し主が負担すべきである。
3、以上から、管理受託者Xの請求のうち、畳表取替えの27,000円の費用のみを認め、それ以外は棄却されました。
■契約の際には国土交通省の「ガイドライン」を熟知していることをアピールしましょう
このマニュアルの中でも何度もご紹介をしている、国土交通省が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、クロスの貼り替えについては、借り主の故意または過失で汚したり傷を付けたもの以外は、貸し主の負担という考え方を明確にしています。
また、借り主の負担するべき部分についても、その費用のすべてを負担する必要は無く、借り主が汚損、破損した面のみの負担で、さらに経年を考慮しての費用を負担することが基本的な考え方としています。
この裁判の当時は「ガイドライン」も公表されておらず、管理会社も自信を持って訴訟を起こしたのかもしれませんが、「ガイドライン」が公表される前の判例でも上記の費用のうち、借り主が負担するべき費用は4、畳表取替えの27,000円のみとされています。
契約の際には、原状回復費負担の条項をよく確認し、本来なら貸し主が負担するべき費用を借り主が負担する規定となっていた場合には、きちんとその旨説明があるか注意をするようにしてください。
また、通常の原状回復の規定のみが書かれている場合には、「国土交通省の『ガイドライン』に基づく原状回復費用の負担で良いのですよね?」と一言確認をして、ガイドラインを熟知していることをアピールするようにしましょう。
貸し主、管理会社は、借り主が国土交通省の「ガイドライン」を熟知していると知った場合には、解約時に暴利的な原状回復の費用を請求することはまずないと思います。